キミのために、思うこと。
「…ん」
月子が来てからどのくらい経ったのだろう、哉太がうっすらと目を開けた。
「月子…?」
「あ、お、起こした?」
それに気づいた月子が声をかける。哉太は首を横に振った。どうやら自然に目が覚めたらしい。
「でも、こんな時間にどうして?まだお前部活の時間だろ」
哉太に言われて、月子は時計を確認する。月子が思っていたほど時間は経っていなかったようだ。
「錫也から哉太のこと聞いて、休んできた」
「お前、大会近いじゃ…」
「だって」
哉太の言葉を途中で遮り、月子は言う。
「部活より、大会より、哉太の方が何倍も大事だもん」
哉太は黙ったあと、顔が隠れる位まで布団をずり上げた。
「え、変なこと言った!?ごめんね!!哉太ごめんね!!」
慌てて月子は謝る。布団の中の哉太は、小刻みに震えていて。病人を泣かすほどひどいことを言ってしまったのか、と月子は泣きそうになった。
「…えよ」
「え?」
「違えよ、月子」
哉太は布団から顔を出すと、そのまま起き上がろうとする。すぐ月子がサポートに入った。
完全に上体を起こすと、哉太は月子の頭に手を載せる。
「お前は、昔から変わんねえな」
哉太の行動についていけていない月子は、きょとんとするばかりだ。
「素直で、正直で。かわいい」
「か、哉太!?」
月子の反応に、ついに堪えきれなくなったのか、哉太は声を上げて笑った。
ここまで来て、ようやく月子は理解する。
さっきは、泣いていたんじゃなくて、笑いを堪えるために布団をかぶったのだ、と。
「そういうところがかわいいって言ってんだ。あー、おもしれえ」
「ちょっと、人で遊ばないでよ、もう!!」
しばらく笑い続けた後、月子の髪に乗せていた手を、哉太は肩まで下ろしてそっと抱き寄せた。
「ごめんな。俺のせいで月子に沢山心配とか迷惑とかかけてる」
優しい、でも少し暗いトーンの声に、月子は首を横に振った。
「哉太だから、こういう風にしてるの。哉太からの迷惑なんてそんな風に思ってないし、哉太への心配は、あたしが勝手にしてるだけ」
「月子…」
「哉太は、何も謝ることなんてないの。いつも哉太が一生懸命なの、私、知ってるんだから」
月子は明るく微笑む。少しでも哉太が楽なように、笑っていられるように。できることも、苦労も、全部してあげたい。
その思いは、本当に変わっていないから。
「早く、月子に楽させれやれるように、頑張るから」
哉太は、さっきよりも強く月子を抱きしめた。