キミのために、思うこと。
コンコン、と扉をノックする音と、扉が開く音が順に聞こえる。
「哉太、生きてるか?」
カーテンからひょこ、と顔を出しながら言ったのは錫也。
「人を勝手に殺すな」
「その様子じゃ大丈夫そうだな」
錫也は安心したように笑い、つられて月子や哉太も笑う。
「あ、私、飲み物買ってくるから、錫也どうぞ」
月子は今まで座っていた椅子を譲り、立ち上がる。サンキュ、と錫也は椅子に座って、哉太と話し始めた。
月子はそっと部屋を出て、ついさっきまであれほど急ぎ、いろいろ考えていた道をゆっくりと戻る。哉太の病室の近くにはデイルームがあって、そこにも自販機はあるのだけれど、月子はわざと一階まで買いに行くことにした。
自分が哉太を心配していたのと同じくらい、錫也も哉太のことを心配していただろうから。
自分が哉太と話して安心したように、錫也もそうなってもらいたい。
エレベーターに乗りこみ、数字が左に動いていくのを見ながら、月子は思った。
こう考えるのが、今日で最後になればいい、と。
2010.11.15 fin.