あしたのあしたのまたあした。



――――――……


「俺、あれから考えてたことがあるんだ」
 錫也が何?と聞き返すと、哉太は明るめの声で続ける。
「前に、錫也が俺のすきなものばっかり作ってくれたことがあったろ。月子と一緒に」
「ああ、お子様ランチ」
 それは、以前に哉太のためにオムライスやハンバーグ、エビフライなどを盛り合わせたプレートを錫也が作ってくれたもの。月子が描いたフランスの国旗付きの爪楊枝がオムライスに刺さっていたため、哉太たちの間でそれは“錫也特製お子様ランチ”と呼んでいたのだった。
「それさ、俺が退院したら、また作ってくれねーかな、って」
「そんなんでいいなら、いくらでも」
 笑いながら答える錫也に、よっしゃ、と哉太は右手で小さくガッツポーズを作る。一時期よりも今の方がずっと明るくなったように感じた。
「そろそろ面会時間終わるし、お暇しようかな」
 気付いたら、外はかなり暗くなっていた。空には沢山の星が瞬いている。
「おう、ありがとな」
「また来るから」
 錫也の言葉に、哉太は力強く、待ってる、と答えた。

「また、か」
 一人になって、ほんの少し寂しくなった病室で、哉太は呟いた。
「約束、守らねえと」
 枕元に置いてあった写真立てに哉太は手を伸ばす。そこには羊も含めた4人での写真と、仲の良い二年生で集まってお茶会をした時の集合写真が入っていた。
「またみんなで集まって、バカやって。それで、また写真を撮るんだ」
 撮りたい場所、時間、メンバー。哉太の頭の中には、何枚もの写真の構図が浮かんでいる。
「月子にも、ちゃんとお帰りを言ってもらわねえとな」
 あの時の約束を守って、月子は一回もお見舞いには来ていない。次に会うのは、退院後、哉太が元気になってから。その時に月子に伝えたい言葉も、伝えてほしい言葉も、沢山ある。
「…頑張るよ、俺。絶対お前を悲しませるような未来になんかしない」
 そう言ってからしばらくして、自分の言葉にあんまりにも恥ずかしくなった哉太は写真を元の位置に戻して頭まで布団をかぶった。いつもならこういう時には勢いよく布団を被るかぼすんぼすんと布団を殴るかするところだけれども、自由に動けない今はそんなことはできないし、点滴のチューブが引っかかると地味に痛い。何かにあたりたいところをぐっとこらえて、そのままもそもそと布団の中で平常心を取り戻そうとしていた。
 静かになった病室に、機械音が響くようになった。それは無機質であったけれど、確かに、哉太がここにいることを証明していた。

2012.5.16 fin.