流行の最先端を走るとか別に嬉しくもなんともない。

 翌日。
 熱が下がって、だいぶ楽になった体に負担がかからない程度に動きながら、梓は翼の元へ向かう。星月学園の今年の帰省ラッシュは冬休みに入ってから4日後。終業式直前に降った大雪のせいで、計画が大幅に狂った生徒も多いらしい。翼はそのラッシュを避けて帰る、と言っていたことを覚えていた。
 コンコン、と翼の部屋の扉をノックする。少しして出てきた翼は梓の姿を認めてぱあ、と表情が明るくなった。
「もう大丈夫なのか?」
「うん、昨日はありがと。・・・って、何でそんな格好?大掃除でもしてるの?」
 玄関に立つ翼は、半袖Tシャツにトレパン。この季節じゃ考えられない軽装だ。
「ううん、ずっとボーっとしてた。昨日あれからずうっと課題やってたから、腕とか筋肉痛だし」
「のわりには寒くない?あんまりあったかい空気流れてこないけど」
「だってヒーターつけてないもん」
「はぁ!?」
 思わず梓は大声を出し、そしてむせる。いきなりそんな声出すから、と翼が背中をさすった。
「僕が家でどんだけヒーターつけてると思ってるの!!翼の部屋より日当たりいいからあったいはずなのに!!」
「え、だって今日とかヒーターいらなくない?昨日は寒かったけど、今日は普通じゃない?」
 ぬーん、とした表情に変わった翼に、梓はぴくっと眉を動かした。
 昨日より気温は低い。だから、あたたかいはずはない。
「翼、動くなっ」
「ふえっ!?」
 梓は右手で翼の額を、左手で自分の額を触る。数秒して離した手は、左右でかなりの温度差。
「ねえ、熱でてるって」
「え、でも咳とかでないぞ?」
「僕もそうだったの!!いいから星月先生のところいくよ!!」
「大丈夫だって〜・・・」
「大丈夫とかそういう問題じゃなくて、僕が嫌なの!!」
 コートを着せて腕を引っ張る梓を、翼は不思議そうに見た。
「え、どういうこと?」
「昨日僕んとこ来たから、僕のがうつった、とかだったら責任感じるでしょ」
「そんなん、俺が勝手に行ったんじゃん」
「それだっていろいろおつかい頼んだでしょ。もしかしたら勘違いかもしれないけど、一応行っとこうって」
「ぬーん・・・梓がそこまで言うなら・・・」
 翼はしぶしぶ立ち上がる。本当に自覚症状はなにもないらしく、梓がそこまで言うのが信じられない、といった雰囲気だ。
 何もなきゃ何もないで済むんだから、と梓は小声でつぶやく。その言葉は、翼を素通りしていった。