誕生日のキミに。
着いたのは、普段は空き教室となっている、学習室。入学してすぐの学校案内で来たっきり、梓は一度も来たことがなかった。
今日は、中に誰かいるらしく、電気がついている。声は、聞こえないけれど。
「あけてみて」
月子に促されて、梓は学習室の扉を開けた。
パン!!パン!!と音が響く。
「木ノ瀬くん」
「誕生日」
「おめでとー!!!」
中にいたのは、誉と龍之介、それに三バカ。さっきの音は、みんなの鳴らしたクラッカー。
「え?え?え??」
突然の展開に、戸惑う梓。
「今日、僕、誕生日・・・?」
「梓くん、忘れてたの?」
「木ノ瀬にしては珍しいな」
「いつもの木ノ瀬くんなら、展開を予想してると思ったのに」
「いや、まだまだ先だと思ってた・・・」
本当にびっくりした様子で、梓はきょとんとする。冬だな、とは思っていたけれど、誕生日はまだまだ先だと思っていて。
「梓くんに内緒で、ずっと準備してたの。そのほうがびっくりするかなあ、って」
「はい、すごくびっくりしました」
「この時期だから、忙しいっていう理由で部活も休みにできるしね、僕もちょうど余裕あったし」
「え、このために休みにしたんですか!?金久保先輩も受験で忙しいのに・・・」
「俺が一番気に入っている店でケーキを買ってきてやったんだ。ありがたく思え」
「なんか宮地先輩キャラ違うくないですか」
よかった、うまくいった、とみんなが笑っている。梓にばれないように、かなり気を使っていたようだ。
「・・・そういえば、陽日先生は?」
梓がふと気づいてたずねた。こういうことには真っ先に来ていそうな直獅がいない。
「先生は、本当に忙しくて来れないって。今頃職員会議でぐだぐだしてると思うよ」
「水嶋先生が大変そうだね」
直獅と郁の様子が簡単に想像できて、その場にいたメンバー全員が郁をひそかに哀れんだ。
「陽日先生が来れないのは残念だけど、その分梓くんの誕生日、お祝いしなきゃ!!」
月子が場の空気を新しいものに変える。ほらほら、と梓の手を取って、席まで案内して。
「時間は短いかもしれないけど、素敵な時間にしていってね」
笑って言う月子に、梓も微笑みながら頷いた。
それから約2時間程度、笑い声が途切れることはなくて。
久々に全員そろった弓道部が、未だに絆が深いことが確認できた。
「夜久先輩」
お開きになって、会場の片づけをしている月子に、梓が声をかける。
「先輩が、企画してくれたんでしょう?」
自分の誕生日を忘れていたとはいえ、そこには気づいていたようだ。
「ありがとうございます、先輩」
「どういたしまして。梓くんが喜んでくれたなら、私もうれしいよ」
月子の言葉に、梓は笑顔になる。
「先輩の誕生日には、もっともっと嬉しくさせます。楽しみにしていてください」
「ありがとう、梓くん」
ふと見た窓の外は、一面の星空だった。
2010.12.23 fin.