誕生日のキミに。

 梓は、ふと窓の外を見た。一口サイズのわたあめのような雪が、一つ、また一つと舞い降りてきている。このまま続けば、積もりそうだ。
「・・・あ、靴、防水じゃない」
 なんとか帰るまでに止んでくれればいいな、と思いながら、黒板に視線を戻した。

 放課後になっても、雪は舞い続けていた。
 今日は都合がある部員が多いらしく、部活はお休み。こういうとき、一緒に帰る翼は生徒会で何か企画の準備がどうたらこうたらで、忙しいらしい。きっと月子も同じように校内を走りまわっているのだろう。
 つまらない。
 梓は声に出さずに呟いた。いつもやることが何かしらあるから、それが一気になくなると、途端に路頭に迷ったように、何もできなくなる。
 そういえば、もうすぐ提出の課題があったっけ、と思い出し、梓は自分の席に座った。寮に帰ろうかとも思ったけれど、まだあまり生徒が帰っていないせいで、うまく道ができていない。できれば濡れずに帰りたいから、ある程度人が帰ってから帰りたかった。
 カリカリ、とシャーペンの音が部屋に響く。教室には、梓一人だけ。
 ある程度、目処がついて、そろそろ帰ろうかな、と思った頃。
「梓くん、みっけ」
 声に顔を上げた梓が、教室の入口に立つ月子を認識するまでに、一、二秒。それほど、月子が梓の教室にいることが信じられなかった。
「夜久先輩?」
「よかった、もう帰っちゃったかと思った。どこにもいないんだもの」
 校内中を走り回っていたのだろう、肩で息をしている月子の元に、梓は歩み寄る。
「何をしたんですか?」
「え?」
「翼が、一人じゃなんともできないようなことをしたから、僕を探してたんでしょう?」
 心配そうな梓の言葉に、月子はくすくすと笑った。
「そうしたら、会長が激怒してるか、颯斗くんの黒板が鳴り響いてるね」
 翼や月子から噂を聞いている梓は、颯斗の黒板、ときいて眉をぴくっと動かした。
「翼くんは今も一生懸命仕事してるし、激怒してる会長も、黒板を鳴らす颯斗くんもいないよ」
「え?じゃあ・・・」
 部活、はないし、委員会は一緒じゃない。寮はもちろん違うし、科も違う。そして、翼関係でもない。
 訳がわからなくて戸惑う梓が珍しくて、月子はくすくす笑い続ける。
「梓くん、これから時間大丈夫?」
「え、あ、はい」
「一緒に来てほしいところがあるの」
「じゃあ、準備するんでちょっと待ってくださいっ」
 ほとんど情報を与えず、月子は梓を誘う。慌てて、梓は荷物をまとめた。
「それじゃ、行こうか」
 にっこり笑う月子の横に、梓はついた。