ふしぎなあのこは、すてきなこのこ。
「じゃあ、俺もアメリカに行く」
「・・・は?」
何いってんのお前、と目で語る梓に、翼はぬはは、と笑った。
「だから、梓がアメリカに行くなら、俺もアメリカに行く。決ーめた」
「なんで」
「梓のために」
梓はキョトン、とするというより、半ば呆れたような表情で翼を見る。アメリカに留学するには、お金も学力もそれ以外も相当必要だ。首席の翼だから、学力はあまり心配しなくても良いのかもしれないけれど、それ以外の面では家族の協力が不可欠だから、翼一人で簡単に決められるようなものではない。第一、自分のために、という意味が梓はよく分かっていなかった。
「俺は発明がすき。それは、梓も分かってるだろ?」
そんな梓の心の内が読めたのか、翼は言葉を続ける。
「元々、大学にいったら、そういう分野の勉強をしたいって思ってたんだ。梓が宇宙に行くなら、俺は、梓を宇宙へ行かせてやるものを作る。どう?良くない?」
「え、翼がシャトル作るの?」
「そういうこと!」
「何それ怖い」
「ぬーん!!!ひどいぞ梓!!!」
ほぼ表情を変えないまま言う梓に、頬を膨らませる翼。
「だって、いつも失敗ばっかりじゃない。それに、絶対まともじゃないシャトル作りそう」
「そんなことないんだからな!!」
「えー?本当ー?」
「本当!!俺にどーんと任せるのだ!!」
翼は自分の胸を拳で叩く。
「だから、梓はやりたいことを一生懸命やればいい」
さりげなく言われたその言葉は、作られたものでは決してない。
「俺が、梓を支えてやる」
「・・・絶対、僕が翼の面倒見ることになると思うんだけど」
「いいところで話の腰を折るなよ!!!」
「だってそうじゃない」
翼が、心から自分のためを思って言ってくれている。それは梓も分かっている。
だけど、おいしいところばっかりなんか、とらせない。
「まあ、翼は言い出したら絶対聞かないもんね。聞く耳を持たないっていうか、なんていうか」
再び頬を膨らませる翼に、梓は、ふふ、と笑って。
「・・・ありがと」
その言葉に、一瞬目を丸くしたあと、翼は笑う。
「気にすんな、従兄弟だろ!!」
そのあと、お互いに家族を何とか説得して、担任のところに話を通して。寝耳に水の話で、最初は大反対されたものの、家族にも、担任にも、言い出したら聞かない性格なんだから、となんとか了承してもらえた。
決して、簡単な道のりではないことは、本人たちが一番良く知っている。これから多忙になることも、様々な面で負担が大きいことも、だ。
新学年が始まって、大変な時期が目前に迫り始めた。毎日の密度が大きすぎて、めげそうになったことも何回かある。
そんな時。
「梓」
いつも、声をかけてくれるのは、翼。
「がんばれ、とは言わない。一緒に、がんばろう」
その言葉で、一人じゃないのを実感できる。
「これで翼が日本に置いてけぼりとかなったら、笑うどころの問題じゃないからな」
「あれ、梓、なんか笑っ」
「笑ってない」
「なんだよ嬉しいくせに」
「うっさいな!!」
数ヵ月後、梓と翼に無事桜が咲くのだけれど、それはまた、別の話。
2010.12.13 fin.