ささのは、さらさら

「つばさ」
 降り注ぐ太陽が眩しい季節がやってきていた。時折涼しげな風が吹いてくることはあるけれど、梅雨の明け頃と重なっているせいで、じめじめしていて決して暮らしやすい環境ではない。
 そんな時期の、朝から快晴だった日。梓は、折り紙を縁側で発明品を作っていた翼に手渡した。
「おりがみ?なにかつくるの?」
「このまえようちえんでつくった、わっかのかざりをつくろうかとおもって」
「おたんじょうびかいのときの?」
「うん。きょうはたなばただから」
 7月7日、七夕。旧暦の時は秋の始まりで天気が良い日は多かったけれど、今の暦になってから梅雨と重なって、天の川はめったに見られなくなった。
「えいすけじいちゃんが、ささをとってきてくれるんだって。だから、いっしょにかざりつくろう」
 梓の言葉に、翼は笑顔で頷く。縁側近くの部屋の机で、沢山の色の折り紙を広げた。 「なにいろがいいかな」
「んー・・・あか?」
「あかだったら、きいろとか、オレンジとかもいいよね」
 正方形の折り紙を、なるべくきれいに、縦に4等分する。わっかを作って、端をセロハンテープでとめて、そのわっかに折り紙を通して、またわっかにして、端をとめて。
 2人で夢中で作っていたら、いつの間にか、2人の身長を足したくらいの長さになっていた。
「これくらいあれば、だいじょうぶだよね」
「あ、そうだ、あずさ」
 翼は残っていた折り紙を半分に切って、片方を梓に差し出す。
「たなばたは、たんざくにおねがいごとかかなきゃ」
「そうだった、わすれてた」
 作った輪飾りは一旦縁側の方に置いておいて、翼が持ってきた色鉛筆をそれぞれ持ち、お願い事を考え始める。
「ねえ、つばさ」
「ぬ?」
「おねがいごとって、なんでもいいのかな」
「いいとおもう。あずさは、おねがいごと、きまったの?」
「まだ。つばさは?」
「ぼくもまだ」
 机に向かって、早十数分。机が低いせいで自然と正座をしてしまったため、気づいたときには2人とも足がしびれて動けなくなっていた。
「ぬぬぬぬ・・・・・・よし、これにしよう」
 やっと、翼が色鉛筆を動かし始めた。
「なに、つばさ、きまったの?みせてよ」
「だめ!さいしょにみせるのはおりひめさまとひこぼしさまじゃないと、おねがいごとかなわなくなるもん!」
 梓が横から覗こうとしたのを、翼は慌てて阻止する。そんな翼に、梓は少々頬を膨らませた。
「いっつもぼくはつばさにいろいろみせてあげるのにー」
「それとこれとはちがうの!!」
 見せて、嫌だ、と騒いでいると、玄関からただいま、という英空の声。
「「じいちゃん!!」」
 今まで争っていた物など放り投げて、翼と梓は競うように玄関へと駆けていった。