ささのは、さらさら

―――――………… 「そういや、そんなこともあったねえ」
「梓、忘れてたのか?」
「忘れてた訳じゃないけど、懐かしいなあ、って思って」
 星月学園射手座寮。星が瞬き始めた時間にたまたま思い出話に花が咲いた。
「結局、翼の短冊、翼が飾る直前に見たんだよね」
「ぬ!? 俺はちゃんと織姫様と彦星様に一番に見せたと思ってたのに!!」
 十数年経ってから明かされた事実に、翼はぷんすかと腹を立てる。
「というか梓!! 梓は結局最後までお願い事見せてくれなかったじゃんか!!じいちゃんに頼んでてっぺんにつけてもらってたから、俺は見えなかったんだ!!」
「今の翼なら見れたのにね」
「ぬぬぬぬ…!!梓、今からでも良いから教えるのだ!!」
「まあまあ、そんなことより」
 騒ぐ翼をたしなめつつ梓は立ち上がり、棚の中から何やら取り出して、翼に手渡す。
「はい、翼」
「折り紙? 何か作るのか?」
 突然渡された折り紙に、一転きょとんとする翼。
「わっかの飾り、は流石にアレだから、短冊くらい書こうよ。七夕は、短冊に願い事書かなきゃ」
 梓の言いたいことが分かって、翼は、ぬ!と笑いながら頷いた。
 折り紙を半分に切って、色鉛筆の変わりに水性ペンを持って。
「そういえば梓、この前学校で書いた短冊に、願い事はないとか、自分で叶えるとか書いてなかったか?」
「そういう翼こそ、発明がどうのこうの書いてたでしょ。あと青空先輩のこととか」
「ぬぬぬぬ…そらそらの黒板キーキーの刑は本当にやめてほしいのだ…」
「この前書いた短冊はこの前。今日はそれ以外のことね」
「それ以外のことか…。梓はお願い事、決まったのか?」
「まだ。翼は?」
「俺もまだ」
 机に向かって、十数分。梓は弓道をしているおかげで正座はこの程度なら余裕だし、翼は最初から胡坐だった。
「ねえ、翼」
「ぬ?」
「まるで、あの時みたいじゃない?」
「ぬははっ、ほんとに!」
 しばらく悩んで書き上げて、とりあえず幼い頃と同じように阻止のくだりを一通りやって。
「どこに飾ろうか、これ」
「高くて星の近くっていうと、カーテンレールくらいしか思いつかないぬう…」
「カーテンレール、か…。ま、仕方ないか。今日だけだしね」
 風情も何もないと笑いながら、カーテンレールの端に2つ、短冊をつるす。
「よし。ご飯食べいこ」
「うぬ!!お腹ペコペコなのだ〜」
 2人が出ていった後の部屋では、少しだけ開いている窓から入ってきた風が、短冊を揺らしていた。
 お願い事は、実はあの時と同じ。
”梓といっぱい楽しいことがありますように 翼”
”翼も僕も、ずっと元気でいられますように 梓”

2011.7.9  fin.