水玉模様の約束

「あずさ」
「なに?」
 商店街を抜けて、来た道を戻りながら、翼が口を開く。
「ごめんね、ぼくのためにたくさんいろいろしてくれて」
「ほんとうだよ。このままつばさがみつからなかったらどうしようかとおもってたんだからね」
「あずさが、おこってさきにかえっちゃったたらどうしようかとおもってたの」
「ぼくだって、つばさがさきにかえってたらどうしよう、っておもった。けど、つばさのことだから、どこかでないてるんじゃないかな、って」
 梓の言葉に、慌てて翼は袖で目をごしごしとこする。
「な、なな、ないてなんかないもん!」
「はいはい。そういうことにしとくね」
 ふふふ、と梓は笑った。
「つばさ、て」
「て?」
「またはなればなれになるといやだから、て、つないでかえろう」
「うん」
 梓の右手と翼の左手がつながる。少し傾き始めた陽が、M字型の影を縦にのばした。
「おかいものはすんだの?」
「つばさをさがしてるとちゅうにかったよ」
「そっか」
 さっきまで渦巻いていた負のオーラはどこにいってしまったのだろう、と思うくらい、翼は笑顔になる。つながれた手から、梓が隣にいるという安心感が伝わってくる。
「あずさがいてくれて、ほんとうによかった」
「そう? …ありがとう」
 梓も、ほわんとした笑みを浮かべる。それにつられて、翼ももっともっと笑顔になる。
 小さな足が、懸命に家路を急いでいた。

 ものすごく遅くなってしまったことで、家に帰った途端に怒られはしたものの、予想していたよりもあっさりとお叱りは済んだ。それは無事に帰ってこられたことが理由なのだろうか。
「つばさははつめいひんをもってたらまいごにならないかな」
「ぬぬぬ! はつめいがなくてもつぎはまいごにならないようにする!!」
「ほんとかなー?」
「ほんとだよ!!」
 ぷくっと頬を膨らませた翼を、梓は大笑いして。
「でも、ちょっとたのしかった」
「え?」
「なんにもないよー」
 台所のほうから梓の名前を呼ぶ声が聞こえ、いたずらっぽく答えながら梓は声のほうに駆けていく。
「…こんどは、あずさにめいわくかけないで、おつかいにいけるもん」
 そう呟いた翼の膝には、まだうっすら水玉模様が残っていた。

2011.4.11  fin.